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もう1人の私が泣く。
大切を失ってあいた穴を埋める為に。
でもその穴は大き過ぎて、きっと一人じゃ埋まらない。
キミが刻んだ時。
とても綺麗で私は、それにいつも見惚れては、憧れた。
でも、
それは堕ちて、粉々になった。
ひどく綺麗だったそれは今はただ、無惨で。
それでもキミは泣きべそをかきながら、それに手を伸ばして。
何で、何でと泣いては、その欠片を握りしめて、
いつの間にかキミの手は、血まみれ。
痛そうだと私は手を伸ばそうとして、
すり抜けた。
…仕方ないことだけど。
キミが泣く。
私に出来るのは泣く事だけ。
キミと一緒に泣く事だけ。
『…何してるの?』
ふと隣を見れば、其処に居たのは私に傷を付けた張本人。
『…お前には関係ない』
『関係あるよ。一応勝手なことして貰っちゃ困るし』
偉そうにどっかり腰をおろし、彼は私を見上げる。
『で?そんなことして、何の意味が在るのかな?』
『…何の意味もない』
口にしては虚しい言葉。
だけど、意味が無くても。
『でも、もう1人は、私に、糸を繋いでくれた。運命の糸』
1人、2人、たくさんの糸。
私が知り合えた人々は、きっと彼女が繋いで紡いだ糸。
『だから意味はなくても、私は、彼女が泣いているのなら、私は』
もう一度、そっと手を伸ばす。
キミが気付かなくとも、私は、傍に…。
『…そうだ』
『ん?どしたの?』
ガッといきなり、私は隣に座る彼に詰め寄る。
『お前はあちらの世界に行けるんでしょう?』
『ん?まぁね』
事もなげに彼は頷いた。
『じゃあ、彼女の傍に居てあげて』
真剣な顔で彼の瞳を見つめ、懇願した。
彼はひどく吃驚したように目を開いた。
少しだけ珍しいなぁと思った。
『何言ってんのさ。ボクはキミ達の敵で、キミ達に害を為すモノ。キミと同じように、あの子もボクが大嫌いだよ』
いつもの様な口調に戻りつつ、彼は嘲笑うかのように笑いながら言う。
しかし私はそれを無視した。
『別に、私は嫌ってはないよ』
突如、彼の動きが再び止まった。
『お前が付けたこの傷のお陰で、私は『今の私』になれた。彼女の紡いだ糸と出会う切欠ともなった。だから、少しムカつくけど嫌いではない』
私がそう言えば彼は数秒目を瞬かせた後、溜息とも苦笑ともとれるような口調で小さくぽつりと言った。
『…キミ達ホント、似た者同士だよねぇ』
『当り前。私の彼女は元は同じ。全部同じじゃないけど』
彼女が私のように、私が彼女になるような可能性が在って、
自分達が選び掴み取った未来で私達は分岐した。
でも繋がってる。
『だから彼女も、お前のことを嫌いな訳じゃない』
『………それはありがとね』
くつくつと彼が笑う。
数刻して、彼がひょいっと立ちあがる。
『さて、んじゃ行くとするかな。キミもさっさと自分の『セカイ』に帰りなよ』
『…分かってる』
少しだけ厭味ったらしい口調にむっとしつつ、私も立ち上がる。
一度だけ、泣く彼女を振り向いて。
『…………ねぇ』
『分かってるよ。ちゃんとあの子の所へ行くよ。…励ますかどうかは分かんないけどね』
悪戯っぽくくすりと笑って、彼が歩き始める。
その様子を見て、ふと思う。
『…お前は、彼女の事が好き、でしょ?』
言うと、彼は立ち止って、振り返った。
『…勿論、大好きだよ。どれほど彼女に嫌われようとも、ボクは彼女を愛し続けるよ』
何時になく素直な彼の言葉。でも何処か歪んで聞こえた。
『……そしていつか、彼女に殺される事を望んでる?』
何となく、そんな気がして。
そう言ったら、彼はさぁね、と苦笑した。
『でも、ボクの『セカイ』を彼女が終わらせてくれるのなら、良いかもね』
あ、と彼は何かを思いついたように此方を見た。
『もちろん、キミでも構わないよ。キミが殺してくれても、ボクはきっと満足』
『…そう』
ヤケに嬉しそうに言うその表情はどこか悲しくて、私は顔を背ける。
背を向けたままの私に彼は楽しげに告げる。
『次に逢う時は、きっと危害を加えるから。糸が繋がって巡り会える時を待っているよ』
そう言って、彼の姿は霧散するかのように消えた。
彼が消えた場所を睨んで、静かに私は溜息をついた。